瀧嶋の目Takishima's Eye

瀧嶋 誠司
(株式会社オズペック会長)

大手ゼネコンに入社し、企業留学でMBAを取得した後、経営コンサルタント、教育サービス産業(上場)及び建設系企業(未上場)で取締役を10年経験する。2005年、MBOにより株式会社オズペックを設立し、代表取締役社長に就任。2023年12月より現職。
経営コンサルタント、経営企画・管理、人事・総務、営業・販促・営業管理、企業統治(取締役3社経験、計10年)

#_01アフターコロナ どうなるのか、建設・不動産業界を取り巻く雇用環境?

(1)どうなる雇用環境(総論)

2020年はリーマンショック時を上回る雇用環境の悪化が予想されます。
2020年4-6月期の実質GDPは前期比年率▲27.8%とリーマン・ショック後の2009年1-3月期(同▲17.8%)を超えるマイナス成長となることが既に発表されております。7-9月期以降は緊急事態宣言の解除を条件として高めの成長と予想されていますが、4-6月期の落ち込みを取り戻すには至りません。現時点では、実質GDP成長率は2020年度が▲5.5%~▲6.5%、2021年度が3.5%前後と予想されています。回復まで2024年までかかるとの見通しですので、回復はV字ではなくL字となり、数年の期間を乗り切っていく必要がありそうです。

景気の急速な悪化を受けて、雇用所得環境は大きく崩れてきております。4-6月期でも雇用者報酬は前期比▲3.7%と、リーマン・ショック時同期の倍近い落ち込みです。これにより2020年度の実質雇用者報酬は6年ぶりに減少することが予想されます。

失業率も現在の2%台半ばから4%台まで上昇するとの見通しです。加えて、日本特有の問題として、大企業を中心に存在する「企業内失業者」があります。現在労働者の約8~10%が存在するとされておりますので、(全てではないとしても)これらを加えると実質失業率は欧米諸国並みの10%前後の数値となるとも言われております。リモート・テレワーク化の動きは、働き方や評価制度そのものを見直すきっかけとなり、成果主義的制度への移行を加速する要因となります。よって、これら企業内失業者を顕在化させていく可能性が高く、予想失業者は見通しの4%より増える方向と考えられます。

(2)建設・不動産業界の市場環境

2020年度の建設投資は、新型コロナウイルスの影響で2014年度以来6年ぶりに前年度を下回る見通し(60.8兆円)です。もう少し長いスパンで建設投資額推移を見ると、リーマンショック後の2010年が42兆円の底で、そこから10年程度で18兆円程度増加しております。その内政府建設投資額(公共事業)の増加分が約5兆円ですので、13兆円が民間投資額の増加分です。建設物価の上昇もありますので、そこまで投資額が減少する事はないものの、今回のコロナ・ショックによる景気悪化に加え、労働人口が減少して、国力が低下していく日本においては、今後建設投資額、特に民間建設投資額が減少していくことは十分予想される事です。

政府建設投資額については、当面維持されると予想されるものの、トレンドとしてはマイナス傾向にあります。新型コロナ対策で支出がかさむ中、政府建設投資にも制限が掛かりますし、増加の要因ともなった東北復興事業関連も終わりが近づいてきています。
但し、災害復旧や改修・再構築関連の事業は増加していくと思われます。

大幅な減少が予想される民間建設投資については、様々な予測がありますが、用途別で設備投資が堅調なのは、物流倉庫、データセンターと一部の生産施設で、それ以外の、宿泊、商業、事務所、住宅等の施設については大幅なマイナスになると予想されます。(過熱気味だった東京でのオフィス需要も、新型コロナによるリモート・テレワーク化の加速により、空室率が上昇するとの見通しがあります。実際解約の動きも出てきています。)建築需要の減少は大きく、建築物着工床面積が2割程度減少するとの予測もあります。

海外建設投資について、渡航制限がある現状では、活動そのものが制限されており、かなりの落ち込みが予想される事は言うまでもありません。海外比率が高い建設会社や設計・コンサル会社ほど、今期業績見通しは厳しい様です。

(3)どうなる建設・不動産業界の雇用環境

各社業績見通しが立たないので、採用活動は著しく停滞してきています。特に、大きな企業ほど、その傾向が強いと感じています。(大企業には、2020年入社の新卒研修対応と遅れている2021年新卒採用活動があり、中途まで手が回らない事情もあります。)

既に今年度の中途採用中止を通知してきてる企業も出てきており、採用活動を継続している企業でも、採用基準が上がってきている印象があります。当面、求人企業の中心は、慢性的に人手不足であった中小・中堅企業となりそうです。

建設投資のトレンドが、「土高建低」「政増民減」ですので、公共事業のウエイトが高い会社、国土保全やアセットマネジメント分野の強い建設コンサル会社、公共建築に強い設計事務所、物流倉庫・データセンター・生産施設系が強い設計・建設会社と事業会社(発注側)が当面の有望な求人企業と言えそうです。

リーマンショック後もそうでしたが、請負側よりも施主側・発注側の雇用環境悪化の方が早いです。また、環境適応能力のある請負側企業の方が、雇用の安定性が高いです。よって、施主側・発注側、事業会社への転職を希望される方は、投資堅調な建設物(公的セクター、物流・倉庫、データセンター、生産施設等)を手掛けている企業がターゲットとなりますが、募集枠(ボリューム)はかなり限定されると思われます。

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