瀧嶋の目Takishima's Eye

瀧嶋 誠司
(株式会社オズペック会長)

大手ゼネコンに入社し、企業留学でMBAを取得した後、経営コンサルタント、教育サービス産業(上場)及び建設系企業(未上場)で取締役を10年経験する。2005年、MBOにより株式会社オズペックを設立し、代表取締役社長に就任。2023年12月より現職。
経営コンサルタント、経営企画・管理、人事・総務、営業・販促・営業管理、企業統治(取締役3社経験、計10年)

#_special「本当の建設コンサルティングとは何か」を問われる時代に
日本工営が考えるDX化と人事戦略

COMPANY DATA

日本工営株式会社

https://www.n-koei.co.jp/
設立
1946年6月7日
資本金
7,480百万円(2020年10月28日現在)
従業員
5,702名[連結]、2,397名[単独]
株式市場
東京証券取引所市場第一部(サービス:1954)
事業内容
開発および建設技術コンサルティング業務ならびに技術評価業務、電力設備、各種工事の設計・施工、電力関連機器、電子機器、装置などの製作・販売

日本最大手の建設コンサルタント会社である日本工営株式会社。
社会資本づくりに関わるコンサルタント事業や電力エンジニアリング事業のほか、建築・都市設計といった都市空間事業など、国内だけでなく世界各地でさまざまなプロジェクトを手がけています。

近年、建設業界でのDX(デジタルトランスフォーメーション)が加速する中、同社ではどのような取り組みが進められているのでしょうか。また、大きな変革が進むであろう建設業界で、今後、どのような人材が求められるのでしょうか。

弊社代表の瀧嶋と旧知の仲でもある、経営管理本部人事部長 兼 事業戦略本部デジタルイノベーション部 生産効率推進室長 国峯 紀彦氏にお話を伺いました。

(対談はリモートで行い、写真は国峯氏よりご提供いただきました。)


経営管理本部人事部長 兼
事業戦略本部デジタルイノベーション部 生産効率推進室長
国峯 紀彦

日本工営のDXプラットフォームの立ち上げ

瀧嶋:
DXといっても、事業のデジタル化を図る外向きのDXと、社内の生産性の向上を目指す内向きのDXの二つがあるかと思います。まず、外向きのDXついて、御社の取り組みを教えていただけますでしょうか。

国峯:
そもそも日本の建設コンサルタントのDXは、世界の中でも立ち遅れていると認識しています。弊社では、せめて国内では一番にならないといけないという思いでDX化を急速に進めています。

今現在、取り組んでいるのが、日本工営のDXプラットフォームの立ち上げです。ここに、当社が業務で蓄積してきた技術のデータに加え、衛星データやIoTデータなど、ビッグデータとしてのインフラ情報を蓄積し、AIで分析できる環境を整えます。そのプラットフォーム上に、さまざまなコンテンツを載せていくというのが弊社のDX戦略です。

瀧嶋:
そのコンテンツとは、具体的にどのようなものでしょうか?

国峯:
今、ターゲットとして考えているものは、大きく3つあります。

まずは、弊社が得意とする防災・減災の分野です。災害にすぐ対応するだけでなく、災害予測にも力を入れています。高域エリアにも対応するため、衛星データを活用した災害予測を進めているところです。

また、道路や橋などといったインフラメンテナンスの分野にも取り組んでいます。コンクリート構造物のクラック(ひび割れ)をAI画像診断で検知するようなシステムを導入しています。これをさらに広域に対応させ、データビジネスにチャレンジできないかなどを模索中です。

もう一つがスマートシティの分野です。国内でも自動運転やMaaSなど、他業種とも連携しながらさまざまなビジネス展開が始まっています。ただ、この分野は、国内よりも海外の方に可能性を感じています。弊社がすでに展開している東南アジアなどは、これから都市形成が始まるところも多いので、いろいろと仕掛けて行きたいと思っているところです。

ターゲットは、防災・減災、インフラメンテナンス、スマートシティ。
(写真はイメージです)

3年後に今の2倍の生産性を目指す

瀧嶋:
そのような中で、社内の労働生産性をどう上げるかも課題ですよね。

国峯:
労働生産性についても、日本は海外に比べて低いと実感しています。ある資料では、ドイツは、年間1350時間働いて、時間あたり約60ドルほども稼げているのに、日本は、年間1700時間も働いて時間当たり約40ドルしか稼げていないというデータもあります。

そのため、社内向けのDXも積極的に進めています。昨年、弊社では組織の編成を大きく変革し、私も生産性効率推進室の室長を兼務することになりました。

コロナになって、社内のITに対する意識が変わったのは、私は良かったなと思っているんです。

現在の私の目標は、3年後に生産性を今の2倍にし、恒常的残業をゼロにするということです。外部の意見も取り入れながら、その指標を固めつつあります。決して無理な目標ではないはずです。今年度が弊社の「生産性向上元年」と捉えています。

瀧嶋:
残業は当たり前というイメージがある建設業界ですが、ゼロを目指すというのは大きな目標ですね。具体的にはどのような取り組みをされていますか?

国峯:
会社全体の生産性を向上させるためには、全社員を巻き込んでいく必要があるのですが、それは思ったより大変なんです。そのためにはいくつかのプロセスがあると考えています。

そこで一番重要なのは、「業務内容の見える化」です。これには、マイクロソフトPlannerを活用しています。タスク管理ができ、それがメンバー間で共有できるので、タスクの進捗状況が一目瞭然となります。また、Teamsとの連携もできるので非常に便利ですね。

電子印鑑も進み、ハンコを押す文化はこの1年でほとんどなくなりました。自由度の高いワークスタイルを実現するためにオフィスはフリーアドレス制になっており、リモートワークはもちろんサテライトオフィスもすでに数拠点オープンしています。ワーケーションも視野に入れ、社員の働きやすさを高めているところです。

また、若手のサポートも充実させています。社内で開発した「はたらくナビ&はたらくサポ」というソフトがありまして、上司部下や先輩後輩のコミュニケーションツールとして活躍しています。

瀧嶋:
テレワークが進むと残業管理が難しいと思うのですが、そこはどのように対応していますか?

国峯:
社内で開発したスマホ対応出退勤管理アプリ「おうちdeおしごと」を導入し、テレワークでも出社時と同様に勤務管理が出来る環境を作っています。社員は仕事の始まりと終わりをこのアプリで登録し、上司がそれをスマホでどこでもチェックできるという仕組みです。月末に必要な稼働表も自動で作成でき、残業の精算も楽になりました。

「業務内容の見える化」が生産性向上の鍵を握る。
(写真はイメージです)

RPAを導入すれば間違いなく効率は上がる

瀧嶋:
デスクワークを自動化するRPA(Robotic Process Automation /ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入も積極的に進めているそうですね。その手応えはいかがですか?

国峯:
生産性の効率が下がるのは、ヒューマンエラーで手戻りが多かったりする場合なんですよね。RPAを導入すれば間違いなく効率が上がります。ただ、RPA化するためには、その作業の手順を明確にする必要があるんです。それがなかなか大変なんですが、そのためのツールも導入しています。パソコンで作業するたびに、その作業内容を言語化してくれるので、作業マニュアルを自動で作成できるだけでなく、そのままRPAにトレースできるというものです。これまでに20件ほどの作業をRPAで自動化しています。

こうした作業工程を明確化する重要性を、社員に認識してもらうことも大切だと考えています。各部署からメンバーを出してもらいワーキンググループを作って、それぞれの分野で自動化できる作業を議論しながら進めているところです。

瀧嶋:
なるほど。これらを進めていけば、将来的な残業ゼロも視野に入ってきますね。

国峯:
残業の問題は二つあります。
一つは、特定の人に過重労働がかかってしまうことです。これは、仕事内容を明確にすることで作業をシェアしやすくなるのではと考えています。

もう一つは、そもそもリソースが足りていないということでもありますよね。これは人事戦略にかかる話ですので、繁忙度の高い部署に人を配置するような採用計画を立てなくてはなりません。つまり生産性向上と人事戦略の両輪で対応する必要があるということですね。

弊社の新卒採用は、今年度は約150名、来年度も同規模の予定ですが、私のイメージとしてはこれをあと10年維持するという思いで進めています。これはコンサル系企業としては非常に多いと思います。リソースを手当しながらも、教育訓練で質も高めていく必要があると考えています。

クリエイティブな仕事を生み出すことができる人が欲しい

瀧嶋:
内外のDXを推進していくためには、求められる人物像も変わって来ますよね。IT系など他業種からの転職組も多いですか?

国峯:
そうですね。実際に中途採用で IT業界から入社している人は数名います。しかし、優秀なIT人材を更に増強したいのが現状です。そのため、特定高度プロフェッショナル人材という新たな制度を作って、数年単位のミッションにコミットしてもらうような働き方もできる体制を作っています。IT系の人材の働き方に沿った制度の策定を進めています。

瀧嶋:
テレワークも進んでいくと、ジョブ型雇用も考えていく必要がありますね。

国峯:
ジョブ型雇用は少しずつ意識しています。まずは、ジョブディスクリプションを明確にしようと動いているところです。その人の役割やジョブはなんなのかを明確にし、体系化することで、人の配置もしやすくなり、ワークライフバランスも実現しやすくなるのではないかと考えています。
ただ、テレーワークも進むと、時間だけで管理するのは難しいと感じています。DXで生産性を上げていった先に生まれる新たな時間を使って、次のクリエイティブな仕事を生み出すことができる人が欲しいです。

瀧嶋:
社員の皆さんのITへの意識がコロナで高まったとおっしゃっていましたけれど、IT人材を社内で育てるということは可能なのでしょうか?

国峯:
採用と教育の両輪が必要ですよね。ただ、AIを使いこなすような人材はそれほど簡単には育たないと思うので、社内ではAIを使って出来ることをまず理解し、システム開発はアウトソースで実現するということを考えています。今、具体的に進めているのは、優秀なAI技術者を抱えるアジア企業との外注契約です。

瀧嶋:
日本の技術者もうかうかしてられませんね。国の事業を担うことも多い御社ですが、行政のDXの遅れについてはどのように感じていらっしゃいますか?

国峯:
民間の我々としては、行政のDX化を待つのではなく、自社で進化を続けていかなければと考えています。スマートシティのような事業で大事なのは、データを活用しながらシステムを運用し続け、システム自体を育てていくという考え方です。国の発注は、売り切りの事業が多いので、このあたりの意識を変えていくことも重要なのではないかと考えています。

瀧嶋:
そうなってくると、建設コンサルティングといってもこれまでとはまた違った仕事に広がっていきそうですね。

国峯:
私が今注目しているのは、健康ビジネスです。すでに、ある地方自治体では経営コンサルティング会社と組んでスマートシティ化を進め、IoTデータを活用した予防医療推進プロジェクトを立ち上げるなどの動きが出ています。当然、私たちもそういったところに進んでいきたいと思っています。

瀧嶋:
こうした新しいことにチャレンジする人材をどう育てていけばいいのでしょうか?

国峯:
社員にチャレンジすることの重要性を伝えていくことは大切ですし、それは必ず浸透していくと思っています。例えば、社内副業などでチャレンジしたいことに手を挙げてもらったりする仕組みづくりも考えています。社員のモチベーションを上げたり、組織を活性化していくようなことはどんどんやっていきたいですね。

健康ビジネスなど建設コンサルタントの幅を広げていく。
(写真はイメージです)

「本当のコンサルティングとは何か」を問われる時代に

瀧嶋:
そしてやはり採用ですよね。今後求められる人物像を改めて教えてください。

国峯:
やはりベースとしてDXをイメージできる人材ですよね。3DCADは当たり前に使えて、デジタルツインみたいなところにも知識があるような技術者を求めていくようになるでしょう。今、弊社では土木だけじゃなく、建築分野も成長させていきたいと考えています。一級建築士でありながらもBIMの技術も持っているというような人などもいいですよね。

瀧嶋:
これまで建設業界は、資格重視だったところもあるかと思うのですが、今後は、旧来の働き方をしていた人も新しい技術を学んでいく必要がありますよね。こうした変化にどう対応していけばいいのでしょうか。

国峯:
まず、時代の流れに柔軟である必要があります。若い人も年配の人も、そういう意識を持つことはすごく大切だと思います。

今、建設業界は大きな変革期にありますよね。人手不足や長時間労働など、今、変わらなければこの業界は大変なことになるという認識です。

とはいえ、インフラ市場などは膨大な規模があって、異業種から参入を狙うデジタル企業も多くあると思います。そこに逆に弊社の強みがあるんじゃないかと考えているんです。これまでの建設コンサルタントとしてのノウハウや総合力を生かして、異業種の彼らと一緒になってクリエイティブなことをしていくという風にシフトしていきたいと考えています。これまでのような旧態依然の仕事ではなく、新しいソリューションをいかに提供していくか。これからこそ「本当のコンサルティングとは何か」を問われる時代になっていくのだと思います。

瀧嶋:
最後に、求職者の皆さんにアドバイスをいただけますでしょうか。

国峯:
3つあるかと思います。

まずは、興味のある会社についてよく調べて欲しいということです。時代の流れの中で、この会社はどのような状況にあって何をしようとしているのか。それを知ることは求職活動をする上でとても重要だと思います。

次に、ある程度の柔軟性を持って欲しいということ。私はこれしかできませんというと、よほどその道のプロでない限り、採用は厳しいのではないでしょうか。少し幅を持って考えていただければと思います。

そして最後は、その会社で自分は何がしたいのかをできるだけ明確にして欲しいです。面接で聞くのは「あなたはこの会社で何をしたいのか」ということです。さらに10年後はどうか?と聞くと、なかなかそこまで答えられる人はいません。将来まで見通したキャリアビジョンを持っていただきたいと思います。

瀧嶋:
振り返ってみると、国峯さんと知り合ってもう40年なんですよね。その中でも、なかなかこんな話をしたことはなかったですね。面白かったです。ありがとうございました。

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