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#_074つの「年収の壁」。税金と社会保険の負担はどうなる?

日本では、収入が増えると、本人や扶養者の税金や社会保険料の負担が増えることによる、「年収の壁」があります。
一口に「年収の壁」といっても、いくつかの種類があり、それぞれ違う制度によって生まれているため、整理して考える必要があります。
代表的な例として専業主婦(主夫)がパートで働くときの4つの「年収の壁」を税金と社会保険それぞれの負担に分けて見てみましょう

■税金の壁

①103万円の壁
この壁を超えると、「給与所得控除55万円+基礎控除額48万円」を超えるため、本人の所得に対して所得税が課税されます。ただし、103万円を超えた金額に対して課税されるため、手取り金額がマイナスになることはありません。
また、この壁を超えると、配偶者(納税者)は「配偶者控除」を受けられなくなりますが、これを超えても「配偶者特別控除」を受けられ、150万円までは「配偶者特別控除」は「配偶者控除」と同額のため、あまり意識しなくてもよいでしょう。(※配偶者の年収が一定以上の場合はこの限りではない。)

②150万円の壁
この壁を超えると、配偶者の「配偶者特別控除」の額が段階的に縮小を開始し、201万円で0になります(※配偶者の年収が一定以上の場合はこの限りではない。)。
ただし、これも課税対象となる金額から控除する金額が徐々に減っていくだけなので、この壁を越えたことで夫婦の手取り金額がマイナスになることはありません。

■社会保険の壁

③106万円の壁
この壁を超えると、一定規模以上の会社(※)に就業している場合、本人が社会保険へ加入することとなり、社会保険料負担が発生します。
※2023年5月時点での要件は次の通り

  • 1週間の所定労働時間が20時間以上
  • 雇用期間が継続して2ヵ月を超えて見込まれる
  • 賃金の月額が8.8万円以上
  • 学生ではない(夜間の学生などは対象)
  • 被保険者の総数が企業規模で常時101人以上の特定適用事業所に勤務(または任意特定適用事業所に勤務)

④130万円の壁
就業先が③の規模に当たらない場合、この壁を超えると、配偶者の社会保険の扶養から外れ、自分で国民年金・国民健康保険に加入する必要があり、本人の社会保険料負担が発生します。

■収入って何ですか?

税金と社会保険とに分けてそれぞれの「壁」を見てみましたが、まず注意したいのは、税金と社会保険では収入の考え方が違うことです。
①、②は税金の制度による壁で、ここでいう年収は一般的に給与収入と考えてよいでしょう。
これに対し③、④は社会保険の制度による壁で、ここでいう年収は給与収入の他に勤務先から支給される通勤手当等を含みます。知らずに壁を越えてしまわないように気を付ける必要があります。

■本人の手取り?世帯の手取り?

収入によって負担が増えるとはいっても、誰の負担が増えるのかも整理が必要です。
②は、配偶者の所得税上の扶養者である場合に、配偶者の所得税の控除額が減って税額が上がることにより、世帯の手取りが減るのであって、配偶者の扶養に入っていなければ壁は関係ありません。(配偶者の年収が一定以上の場合は、①は世帯の手取りに影響することがあります。)
これに対し①③④は本人の手取り金額に影響があります。

■社会保険による「壁」こそが本当の「壁」。いや本当に「壁」なの?

前述したように税金の壁である「①103万円の壁」「②150万円の壁」は超えたからといって世帯の手取りがマイナスになるようなことはありません。
これらに対して、社会保険料の発生による「③106万円の壁」「④130万円の壁」は、超えることによる手取り減のインパクトは税金の壁と比べ物になりません。社会保険上の収入(給与収入+通勤手当)が壁の金額を超えた瞬間に、社会保険料が発生し手取り金額がガクンと減ってしまいます。自治体や就業先が加入している社会保険などにより一概に言えませんが、「③106万円の壁」では年間の保険料負担は年間15万円程度、「④130万円の壁」では年間36万円程度の保険料が発生し、手取り減が発生してしまいます。
気を付けていないと実際には目に見える「壁」などなく、超えた瞬間に大きな負担を強いられるところは「壁」というよりむしろ「落とし穴」。当事者にとってはうっかり足を踏み入れないように、就労調整に励む方が多いのもうなずける話だと思います。

■最もお得でないのは

いくつかある「壁」の中でも、社会保険の壁である「106万円の壁」と「130万円の壁」は手取り金額をマイナスにしてしまう「落とし穴」とお話をしましたが、少し長い目で見て、社会保険の効用についても考えてみましょう。

会社の健康保険と厚生年金に加入することができれば、例えば自分が病気やケガで働けなくなり給料が支払われない場合でも、4日目から最長1年6か月間は給料の約2/3の健康保険の「傷病手当金」が受給できる可能性があります。障害者になった場合も障害年金は厚生年金と国民年金の両方から受け取ることができます。そして老後の年金も増やすことができ、長生きするほどありがたいと感じるのではないでしょうか。

このように考えると、社会保険に加入することに一定の価値はありそうです。最もお得でないのは、「130万円の壁」を超え、会社の社会保険にも加入できずに、自己負担で国民年金と国民健康保険に加入する場合です。

■年収の壁の影響

年収の壁を超えないように就労調整を行う実態は、2022年12月22日発表の内閣府男女共同参画局による「女性の視点も踏まえた 社会保障制度・税制等の検討」(参考:https://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/keikaku_kanshi/siryo/pdf/ka20-1.pdf)にも表れています。最低賃金の上昇などに伴い、賃金単価は年々上昇していますが、壁を意識して就労調整している方々にとっては、労働時間の減少にしかならず、収入の増加にはつながりません。
日本の労働参加率は、OECD加盟国の中でも上位ですが、一人当たりの労働生産性は下位を争っているといった実態には、就労調整を行っている一定の層の影響もあるのでしょう。

■年収の壁、このままでいいの?

国外の例を見ると、イギリスでも社会保険制度はありますが、一定の収入を超えた時点で超えた部分のみに保険料がかかる仕組みのため、日本のような収入と手取りの逆転現象はなく、就労調整を考える人は見当たらないとのことです。日本でも工夫次第で解決できる問題のように見えます。

そもそもこれらの壁は、収入の少ない妻を保険料なしで国民年金に加入させる第3号被保険者制度や、そうした妻を持つ夫に所得控除を認める配偶者控除といった制度によるもので、終身雇用や専業主婦などを前提とした昭和の時代に作られたものです。前述の「女性の視点も踏まえた 社会保障制度・税制等の検討」にもある通り、1985年から2020年の35年間で、離婚件数の増加・未婚率の上昇により、有配偶率の低下やひとり親世帯数・単独世帯数などの世帯の構成も大きく変容しています。これらの制度により、就業調整のほかにも、女性の経済的困窮に陥るリスクを高め、分配の観点から公平な仕組みとなっていないのではないかと指摘されています。

また、日本の労働供給力不足問題は深刻で、就業調整などと就労意欲を妨げるような制度を残している余裕はありません。就業調整を意識せずに働くことで、経験やスキルの蓄積も進み生産性向上や所得の向上にもつながります。将来的には所得の向上が税金や社会保険料の負担を上回ることで消費を向上させ、税収や社会保険料収入を増やす方向に向かうのが健全ではないでしょうか。早急な制度改革が必要だと言えそうです。

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